外食での会話
子どもの頃あまり外食というものをした記憶がない。
父は食事というものに頓着する人ではなかった。
口に入れば何でもいい、というのではないが、これが食べたいとあまり言わない人だった。
それとは関係ないかもしれないが、外で食べるよりも自分の家で食べることを好んだ。
酒をたしなんだので、すっと横になりたかったのかもしれない。
ある年、何を思ったのか、私の誕生日に外食することとなった。
近くの和食の店に鰻を食べに行った。
もともと、自宅で食べるときも喋りまくって食べる家族ではなかった。
おまけに、めったにしなかった外食である。
何を話して良いかわからない。近くに人がいなければ良いが、あいにくいる。その上、あちらも会話が弾んでいるというのではなかった。
そんなことから、黙々と食べていた。
「おい、少しは話をしたらどうだ」
突然、父が言った。
ならば、自分から話題を出せばいいのだが、それはしない。
父にも適当な話が見つからなかったのであろう。
と言って、こちらに振られても困る。
心の中で思いつつ、さりとて、話題があるわけではないので、黙々と食べるのが続いて食事が終わった。
食事中の妙な緊張感と、あまり楽しくなかった外食の記憶だけが残った。
それからも外食をすることは、少ないながらもあった。
少しは会話をしなければと思いつつ、しかし、黙々と食べるのは変わらなかった。