ボーナス

ボーナスの季節が始まる。
父がボーナスで軽自動車を買ったことがあった。

我が家にとっては初めての自家用車であった。

三菱自動車のミニカ。 2ドア。今の軽自動車と比較すると、何と小さなクルマか、と思ってしまう。

この小さなクルマで名古屋から紀伊半島の白浜まで行ったことがあった。

一家3人が乗って運転手は父だけであった。まったく無謀に近い計画であった。

案の定、途中でトラブルになった。急にスピードが出なくなった。車で旅行することに慣れていなかったためか、このトラブルに私は楽観的だったように思う。

ひょっとすると、心配し過ぎて、記憶が置き換えられているだけでかもしれない。

新宮というところで修理屋に持ち込んだ。すると、ピストンに穴があいていると言う。

事態の切実さがヒシヒシとわかり始めた。

その後、どのように直したかは分からないが、何とかその日の宿泊予定地である那智勝浦にクルマで着いた。

それにしても、ピストンに穴があいた車で何キロかは走ったわけで、今でも信じられない。

あの当時の軽自動車が公道を走っているのを見かけることはさすがにないが、博物館のようなところで見かけると、当時を思い出して切なくなる。

エアコンのない小さなクルマに一家の楽しみ、希望なんぞを載せて頑張ったクルマに愛しささえ感じてしまう。